「お宅の草、だいぶ伸びてますよ」。ご近所の方から、そんな連絡が入る。
空き家になった実家のことを外から知らされるのは、たいていこういう形です。そして実際に見に行くと、外よりも中の方が変わっていることに気づきます。
玄関を開けた瞬間に、臭います。人が住んでいた時の家のにおいではありません。湿ったようなにおい。閉め切った部屋の重たいにおい。畳や押し入れに残る湿気のにおい。水を使っていない台所や洗面所のにおい。
外から見れば、それほど変わっていないように見える。でも、中に入ると分かります。
人が住まなくなると、家は変わります。窓を開ける人がいない。水を流す人がいない。掃除をする人がいない。雨漏りに気づく人がいない。それだけで、家の中は少しずつ傷んでいきます。
湿気がこもる。カビが出る。排水のにおいが上がる。畳が傷む。壁紙が浮く。床が沈む。建具の開け閉めが重くなる。空き家では、こういうことが普通に起きます。
怖いのは、誰も気づかないことです。
人が住んでいれば、小さな変化に気づきます。「あれ、少しにおうな」「天井にシミがあるな」「雨のあと、ここが濡れているな」。でも、誰も住んでいなければ、気づくのは遅れます。
気がついた時には、天井のシミが広がっている。押し入れの奥に、カビが出ている。床がふわふわしている。そこまで進んでから、ようやく分かることがあります。
家の中だけではありません。暖かい季節になるにつれて、雑草も一気に伸びます。
最初は少しだけです。でも、一か月、二か月と見に行かないうちに、玄関まわりに草がかぶる。通路が歩きにくくなる。隣地や道路側にはみ出す。虫も増える。外から見ても、空き家だと分かるようになります。
近所の人は、見ています。
こちらが気にしていなくても、毎日そこに住んでいる方には、毎日目に入る家です。草が伸びる。枝が隣に入る。落ち葉がたまる。虫が出る。台風の時に何か飛ばないか不安になる。そうなると、相続した家は、自分たちだけの問題ではなくなります。
中には、ごみを持ち込まれてしまうこともあります。管理されていないように見える。人の出入りがない。草が伸びている。そう見られると、勝手にごみを置かれることがあります。
最初は一つだけ。でも、一つ置かれると、また別のごみが置かれる。気がついた時には、敷地の中や建物まわりに、ごみが増えていることもあります。
そうなると、片付けるのも大変です。費用もかかります。近所からの目も厳しくなります。防犯面でも不安が出ます。
そして、冒頭のような連絡が入る頃には、すでに少し遅れていることがあります。
草が伸びている。枝が隣に入っている。ごみが置かれている。雨どいが外れかけている。近所の方は、突然言ってくるわけではありません。少し気になる。だんだん気になる。もう放っておけない。そうなってから、連絡が入ります。
その時には、草刈りだけでは済まない。ごみの処分費がかかる。修繕が必要になる。小さなことが、大きな負担になっていることがあります。
私は、空き家になった実家を、すぐに売りましょうと言いたいわけではありません。でも、これだけは思います。
空き家は、良い状態のまま待ってくれません。
こちらが後回しにしている間にも、家は静かに傷んでいきます。だから、まずは一度見に行くことです。
玄関を開ける。においを感じる。部屋を見る。水を流す。庭を見る。郵便物を見る。ごみが置かれていないか見る。それだけでも、分かることがあります。
売るかどうか。貸すかどうか。残すかどうか。その前に、今の家がどうなっているのか。そこを見ることです。
相続不動産の整理は、大きな決断から始める必要はありません。まずは、現実を見ること。そこからだと思います。
見に行ってみて、思っていたより傷んでいた。草もごみも、自分たちだけでは手に負えそうにない。そう感じることもあると思います。
そういう時は、一人で抱え込まなくて大丈夫です。
今の状態を見たうえで、どんな選択肢があるのかを一緒に整理することもできます。売ると決めていなくても構いません。まずは、今どうなっているかを知るところからで大丈夫です。





