相続の話し合いが、形の上ではまとまった。それでも、しばらく経ってから、こう言われることがあります。あの時、何かごまかされたのではないか。あの人だけ得をしたのではないか。本当は自分が損をしたのではないか。
不動産の問題はもう終わっているのに、家族の関係に傷が残る。相続で怖いのは、金額そのものよりも、こちらだと思っています。
相談を受けていると、はじめはみなさん、きれいに言われます。お金の問題ではありません。兄弟で揉めたくありません。きれいに分けられたら、それでいいです。
もちろん、その気持ちは嘘ではないと思います。でも、人間の心は、そこまで単純ではありません。口ではお金じゃないと言いながら、心の中では、少しでも多く欲しい。自分だけ損をしたくない。あの人より少なくなるのは納得できない。自分の苦労も分かってほしい。そう思ってしまうことがあります。
私は、それを責める気にはなれません。
親の近くにいた人。病院の付き添いをしてきた人。空き家になった家を見に行っていた人。近所からの連絡を受けていた人。固定資産税や管理のことを気にしてきた人。そういう人からすれば、同じように分けるだけでは納得できないという気持ちが出てきても、不思議ではありません。
実際、今までの相談の中でも、他の相続人には分からないように、自分が少し多く受け取れる方法はないか、という話を受けたことがあります。正直、大変難しい相談です。
気持ちは分かります。でも、その方向で話を進めることはできません。相続の分け方は、相続人同士で話し合うことです。不動産業者が、誰に多く渡すとか、誰に少なく渡すとか、そこに入り込むものではありません。そこを間違えると、その場ではうまくいったように見えても、後で必ずしこりが残ります。
ただし、不動産を売却するために必要な費用は、きちんと整理しなければいけません。家の中に残っている荷物を片付ける費用。買主さんに引き渡すための最低限の修繕費。庭木の伐採費。雨漏りや設備の確認。場合によっては、測量や解体の費用。
こういうものは、誰かが得をするためのお金ではありません。不動産をきちんと引き渡すために必要なお金です。だから、そこは相続人全員に分かる形で出す必要があります。
何にいくらかかるのか。どこまで片付けるのか。誰が立ち会うのか。売却代金から何を差し引くのか。ここを曖昧にしたまま進めると、あとで感情が残ります。中身が見えないと、人は悪いほうに想像してしまうものです。
相続で怖いのは、お金の金額だけではありません。本当は納得していないのに、表面だけきれいに終わらせてしまうことです。
少し多く欲しい。損をしたくない。自分の苦労も分かってほしい。そういう気持ちは、人間なら出てくると思います。責められることでは、ありません。だからこそ、隠すのではなく、できるだけ見える形にして話すことが大切です。
私が不動産業者としてできることは、相続人の分け方を決めることではありません。できることは、不動産の状態を見て、売却に必要な費用や、引き渡しまでに必要な作業を整理することです。そして、相続人同士が話し合いやすい材料を出すことです。
相続不動産は、家や土地だけの問題ではありません。人の本音が出ます。家族の関係が出ます。今まで言えなかった思いも出ます。だから、きれいごとだけでは進みません。
でも、隠れて誰かが得をするような進め方は、私は良いとは思いません。後々のことを考えるなら、少し多く取ることよりも、あとで恨みを残さないこと。その方が、長い目で見れば大切だと思います。
相続不動産で悩むとき、いきなり結論を出す必要はありません。まずは、今の状態を整理することです。家はどうなっているのか。荷物は残っているのか。名義は誰なのか。相続人は誰なのか。売るためには、どんな費用が必要なのか。家族の中で、何が引っかかっているのか。
そこを整理するだけでも、話し合いの空気は変わります。数字と段取りが見えると、気持ちの話もしやすくなるからです。
その入口として、相続や空き家になった不動産についての無料レポートを用意しています。難しい法律の話ばかりではなく、実際に相続不動産で迷うとき、何から考えればいいのかをまとめたものです。誰かを説得するためのものではありません。ご自身やご家族の中で、何が問題になっているのかを整理するために、読んでいただければと思います。
話しにくいことだからこそ、材料を先に持っておくと少し楽になります。まだ何も決まっていない段階でも大丈夫です。
