任意売却のあとも今の家に住み続ける方法。リースバックの注意点

    「売るのは仕方ないと思っています。ただ、できればこの家から出たくないんです」。そうおっしゃる方がおられます。理由は人それぞれですが、住む場所だけは変えたくないという気持ちは、よく分かります。

    家を売却しなければならない。でも、できることなら今の家には住み続けたい。この希望に対して、方法がまったくないわけではありません。その一つが、「リースバック」です。

    リースバックとは、自宅を売却したあと、その買主と賃貸借契約を結び、家賃を払いながら同じ家に住み続ける方法です。所有者ではなくなりますが、引っ越さずに生活を続けられる可能性があります。国土交通省も、リースバックを、住宅を売却して現金を得たあと、毎月賃料を支払うことで、それまで住んでいた住宅に引き続き住む仕組みとして説明しています。

    任意売却の場合でも、債権者が売却条件に同意し、買主との条件もまとまれば、こうした形を検討できる場合があります。任意売却そのものについては、別の記事にまとめています。

    ただ、先に正直なところをお伝えしておきます。リースバックは、希望すれば必ず成立する方法ではありません。売却価格や家賃の条件が合わなければ、話はまとまりません。買う人が見つからないこともあります。任意売却の中で行うのであれば、債権者の同意も必要になります。住み続けられます、と言い切れる方法ではない。そこを知ったうえで読んでいただきたいと思います。

    10年ほど前にまとめた小冊子で、私は「親族に買ってもらう」という方法を紹介していました。信頼できる親族に自宅を購入してもらい、その方から家を借りて住み続ける。所有権はいったん親族へ移りますが、生活する場所そのものは変わりません。将来、生活を立て直したときに、もう一度買い戻すことまで考えることもできます。

    ただし、親族に買ってもらえば解決する、というほど単純ではありません。

    まず考えなければならないのが、売却したあとの家賃です。リースバックになると、それまでの住宅ローン返済ではなく、今度は買主に対して毎月家賃を払います。

    ここで大切なのは、今の家に住み続けられるか、だけではありません。

    その家賃を、これからも払い続けられるのか。こちらの方が大切です。

    例えば、住宅ローンの月々の返済が10万円で苦しくなったため、自宅を売却した。ところが、売却後の家賃が12万円になった。それでは、家を売ったにもかかわらず、毎月の住居費は以前より高くなります。何のために売却したのか分からなくなってしまいます。

    リースバックの家賃は、物件の売却価格や買主の考え方、契約条件などによって決まるため、一律にこのくらい、とは言えません。だからこそ契約する前に、売却するといくら手元に残るのか。毎月の家賃はいくらなのか。その家賃をこれから何年も払い続けることができるのか。ここまで計算しておく必要があります。売却したときに受け取れる金額だけを見て決めるのではなく、その後に毎月支払う家賃まで含めて考えることが大切です。

    もう一つ、注意したいのが買戻しです。

    今は売るしかない。でも、いつか買い戻したい。そう考える方もいると思います。リースバックによっては、将来の買戻しについて条件を決めることができます。しかし、リースバックだから、あとで当然に買い戻せる、というわけではありません。

    買戻しを考えているのであれば、いつまで買戻しができるのか。いくらで買い戻すのか。どのような条件を満たせば買い戻せるのか。その間に買主が第三者へ売却した場合はどうなるのか。こうしたことを契約する前に確認しておく必要があります。

    口頭で、生活が落ち着いたら買い戻せますよ、と言われただけでは十分ではありません。将来もう一度売買することをあらかじめ決めておく「再売買の予約」という方法などもあります。どの方法を使うにしても、大切なのは、将来買い戻したいのであれば、その条件を口約束だけにしないことです。

    そして、もう一つ。買戻し価格が、最初に売った価格と同じとは限りません。買主側の取得費用や保有期間、契約条件などによって、売却したときより高い価格になることもあります。ですから、今は2,000万円で売って、将来2,000万円を用意すれば戻せる、と最初から考えない方がよいと思います。買戻し価格はいくらなのか。その金額を将来自分が本当に準備できるのか。そこまで確認したうえで考える必要があります。

    親族に買ってもらう場合には、さらに別の注意点があります。例えば、身内だから1,000万円の家を500万円で売ればいい、と簡単に決めることはできません。個人間で不動産を著しく低い価格で売買した場合、実質的に贈与を受けたと判断され、時価と売買価格との差について贈与税の問題が出る場合があります。親族だから自由に価格を決めてよい、ということではありません。

    また、親族が購入するために融資を利用する場合も、金融機関が親族間売買についてどのように判断するかを確認する必要があります。親族が買主だから安心、不動産会社を通さなくてもいい。そう考えず、売買価格や税金、融資、その後の賃貸借契約まで含めて確認した方がよいと思います。

    親族だからこそ、書面にしておいた方がいいこともあります。毎月の家賃はいくらなのか。いつまで住めるのか。設備が壊れたときの修理費は誰が負担するのか。将来買い戻す場合の条件をどうするのか。固定資産税は原則として所有者が納めますが、修繕や管理については、誰がどこまで負担するのかを決めておいた方がよいでしょう。

    今は家族関係が良くても、5年後、10年後に状況が変わることがあります。家族だから口約束でいい、とは考えない方がいいと思います。

    次に、任意売却でよく聞く「退去費用」についてです。

    任意売却について調べていると、引っ越し代がもらえる、退去費用を確保できる、という説明を目にすることがあります。実際、債権者との調整の中で、転居に必要な費用について相談できる場合はあります。しかし、任意売却をすれば必ず引っ越し代が出るわけではありません。決まった相場もありません。債権者、売却価格、残っている住宅ローン、売却に必要な費用、そのほかの債権者との関係。さまざまな条件によって変わります。

    ですから、○○万円は必ず取れます、という言葉を前提に、次の生活を考えない方がいいと思います。認められれば助かる。しかし、認められなくても引っ越しできるように準備しておく。そのくらいに考えておいた方が安全です。

    では、任意売却がまとまらなかった場合はどうなるのでしょうか。その先には、競売があります。

    競売の申立てがされ、裁判所が競売開始決定をすると、不動産について差押えの登記がされます。その後、執行官による現況調査が行われます。執行官は実際に物件を確認し、誰が住んでいるのか。どのような状態で使われているのか。どのような権利で占有しているのか。といったことを調査します。建物内の写真が撮影されることもあります。また、不動産の評価については、裁判所が選任した評価人による調査が行われます。

    こうした調査などをもとに、「現況調査報告書」「評価書」「物件明細書」という資料が作られます。いわゆる競売の3点セットです。

    現況調査報告書には、不動産の現在の状況や占有している人の状況、写真などが掲載されます。評価書には、周辺環境や不動産の評価額などが記載されます。物件明細書には、競売で購入したあとも引き継ぐことになる権利があるかなど、買受けを検討する人にとって重要な内容が記載されています。これらの資料は、裁判所の不動産競売物件情報サイト「BIT」でも公開されています。つまり、競売まで進むと、不動産についての情報が一般に公開されることになります。

    その後、裁判所が定めた期間に入札が行われます。入札期間が終わると開札が行われ、最も高い価格で入札した人について、裁判所の審査を経て売却許可決定が出されます。売却許可決定が確定すると、買受人には代金を納める期限が指定されます。特別な理由がなければ、売却許可決定が確定してから1か月以内の日が代金納付期限として指定されます。そして、買受人が代金を納付すると、その時点で不動産の所有権は買受人へ移ります。

    そのあとも元の所有者が住み続けている場合には、買受人から明渡しを求められることになります。条件を満たせば、買受人が裁判所へ「引渡命令」を申し立てることもできます。引渡命令が出ても自分から退去しなければ、その後、強制執行へ進む可能性もあります。ここまで来ると、もう少しこの家に住みたい、引っ越しの準備ができていない、という所有者側の事情だけで、手続きを止めることは難しくなります。

    競売開始決定が出たあとでも、任意売却ができる可能性が残っている場合はあります。しかし、入札が始まってからでも何とかなる、と考えない方がいいと思います。競売の手続きは止まらず進んでいます。任意売却には、買主を見つけるだけではなく、債権者との調整、売買契約、そして決済まで終わらせる時間が必要です。時間がなくなるほど、できることは減っていきます。

    こう書くと不安にさせてしまうかもしれませんが、脅すつもりはありません。段階によって使える方法が変わる、というだけのことです。

    住宅ローンの支払いが厳しくなった。まだ滞納していない。この段階なら、金融機関への相談ができます。滞納が始まった。それでも、できることがあります。住宅ローン以外の借金が重いのであれば、個人再生という方法が使えないか確認する。家を残すことが難しければ、任意売却を考える。所有権を手放しても今の家に住み続けたいのであれば、リースバックや親族に購入してもらう方法を検討する。そして、どの方法もまとまらなければ、競売へ進む可能性があります。それぞれの段階については、別の記事でも書いています。

    どの段階でも、これさえすれば大丈夫、という方法はありません。家を残すことを一番に考えるのか。今の家に住み続けることを一番に考えるのか。毎月の住居費を減らして生活を立て直すことを一番に考えるのか。人によって答えは違います。

    住宅ローンで困ったとき、家を売るか残すかを最初に決める必要はないと思います。まず、今、どの段階にいるのか。住宅ローンはいくら残っているのか。家はいくらくらいで売れるのか。毎月いくらなら住居費として払えるのか。ほかに借金はあるのか。そして、この先どう暮らしていきたいのか。一つずつ整理してから決める。

    その小冊子を書いたとき、私は「できるだけ家を守る」ということを強く考えていました。今も、残せるのであれば残す方法を考えたいという気持ちは変わりません。ただ、今なら一つ付け加えます。

    家を守ることより先に、生活を守る。

    そのうえで、家も残せる方法があるなら考える。どうしても難しければ、売却して生活を立て直す。それも間違った選択ではないと思います。

    相談が遅くなるのには、理由があります。家とお金のことは、身近な人にほど言いにくいものですから。責められることでは、ありません。慌てなくて大丈夫です。ただ、誰にも話せないまま一人で抱えておく必要も、ありません。

    リースバックができるかどうかも、任意売却で条件がまとまるかどうかも、話を聞かないと分かりません。逆に言えば、状況を並べてみれば、今の段階で選べる方法は見えてきます。まだ何も決まっていない段階でも、状況を話すところから始められます。

    ※この記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。制度の要件や金融機関の取り扱いは変わることがあります。個別の状況については、弁護士・司法書士・金融機関にご確認ください。

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