売却のご相談で書類をお預かりすると、建築確認済証は出てくるのに、検査済証だけが見当たらない。そういうことがあります。
「なくしたのでしょうか」と聞かれることもあります。けれど、多くの場合、最初から交付されていません。
なぜ、建築確認は通っているのに、検査済証がないまま家が完成し、そのまま販売されたのか。私が建売業者に勤めていた頃に見てきた話として、順を追って書いてみます。
当時、大阪市内や大阪府内では、10坪前後の小さな土地に、駐車場付きの3階建て住宅が数多く建てられていました。
土地は小さい。けれど、購入する方は駐車場と4LDKを希望する。
その要望に応えるため、横に広げられない分、上へ建物を積み上げていました。
道路側に駐車場があり、その奥に玄関がある。1階には浴室と洗面所。2階にはLDK、トイレと一部屋。3階には3つの部屋と屋根裏収納。このような間取りの住宅です。
建物の構造にも特徴がありました。
1階部分は、ベタ基礎から壁を立ち上げ、2階の床になるスラブまで鉄筋コンクリートで造る。その鉄筋コンクリートの箱の上に、木造の2階と3階を載せていました。1階が鉄筋コンクリート造、2階と3階が木造の混構造です。
10坪前後の土地でも、駐車場と4LDKを確保できる。土地をできるだけ無駄なく使い、購入しやすい価格で部屋数の多い家を造るための形でした。
もちろん、建物を建てる前には建築確認申請を出します。建築確認申請には、建ぺい率や容積率など、建築基準法に合う内容を記載します。基準に合わなければ、確認済証は交付されません。
そのため、申請する図面は、建ぺい率や容積率の基準内に収まるように作られていました。
問題は、その後です。
実際に建てられる建物は、申請図面と同じではありませんでした。
申請した図面よりも床を広げる。図面上では床になっていない部分に床を造る。屋根裏収納を大きくし、実際に使える空間を増やす。
その結果、完成した建物は、建ぺい率や容積率の基準を超えていました。
建築確認は通っている。しかし、実際に完成した建物は、確認を受けた図面どおりではない。ここが、この住宅の問題です。
本来、建物が完成すると、建築確認申請の図面どおりに造られているかを確認する完了検査を受けます。検査に通れば、検査済証が交付されます。
しかし、申請図面より大きな建物を造っているため、完了検査を受ければ通りません。だから、完了検査を受けなかったのです。
確認済証はある。けれど、検査済証はない。
私が当時見てきた範囲では、このような住宅で完了検査を受け、検査済証まで交付されていた建物は、ほとんどありませんでした。
今では考えにくい話かもしれません。ただ、その頃は、検査済証がないことを理由に、住宅ローンが必ず利用できなくなるわけではありませんでした。
当時は、建物の床面積が大きいほど担保評価も高くなり、融資を受けやすくなることがありました。
屋根裏収納まで登記され、実質的には4つの層がある建物が、4階建てとして登記されているものもありました。
1階の駐車場部分をどのように計算するかによって、容積率の数字が変わることもあります。建物に付いている駐車場は、一定の範囲まで容積率を計算する面積から外せる場合があります。当時は、金融機関の住宅ローン担当者も駐車場部分の面積を確認し、容積率の基準内に収まるか、どの程度超えているかを計算していました。
そして現在も、こうした住宅が中古物件として販売されています。
建ぺい率や容積率を超えていることが分かっていても、取り扱う金融機関があれば住宅ローンを利用できます。別の記事にも書いた通り、住宅ローンの取り扱いは金融機関によって違います。中古住宅の購入にあたり、金融機関によると思いますが、私が住宅ローンの申し込みをしているいくつかの金融機関では、検査済証の提出を求められたことは一度もありません。
金融機関は、土地と建物の担保価値、登記されている床面積、建ぺい率や容積率の超過割合、購入する方の収入などを見ながら、住宅ローンを取り扱うかどうかを判断します。
購入する方から見れば、新築住宅です。
4LDKで、駐車場もある。住宅ローンも利用できる。建築確認済証もある。それなら問題はないと思っても、不思議ではありません。
一般の購入者が、建築確認申請の図面と実際の建物を細かく見比べることは、ほとんどなかったと思います。完了検査を受けていないことや、検査済証がない理由まで、十分に説明を受けていなかった方もいたのではないでしょうか。
そのまま購入され、長い年月が過ぎました。そして今、その住宅が中古物件として売りに出されています。
現在の所有者が悪いわけではありません。新築で購入したときには、住宅ローンを利用でき、普通に住み続けてきた家です。
売却するときになって初めて、建ぺい率や容積率を超えていることを知らされる方もいます。
中古住宅として販売するとき、不動産会社は重要事項説明書や売買契約書に、「この建物を取り壊して再建築する場合、現在と同等の大きさの建物を建築することはできません」という内容を記載します。
住宅ローンを取り扱う金融機関からも、この内容を重要事項説明書や売買契約書へ記載するよう求められます。
今ある建物には、4LDKと駐車場がある。しかし、将来この建物を取り壊すと、同じ土地に、同じ床面積の家を建てられない。
駐車場を残せば、居住部分が小さくなるかもしれません。部屋数を確保しようとすれば、駐車場を取れない可能性もあります。
つまり、現在の建物をそのまま使うことと、同じ建物をもう一度建てることは別の話です。
新築当時は、部屋数が多く、駐車場もあり、住宅ローンも利用できました。
しかし、何十年かたって中古住宅として売却するときには、「再建築する場合、現在と同等の大きさの建物は建てられない」という条件を、次の買主へ説明する必要があります。
私が建売業者にいた頃に見てきた住宅は、建築確認を受けたあと、申請図面より大きく建てられました。そのため、完了検査を受けず、検査済証が交付されないまま販売されました。そして今も、その住宅が中古物件として流通しています。
問題は、検査済証があるか、ないかだけではありません。今建っている家の大きさと、将来建てられる家の大きさが違う。そのことを理解したうえで、購入するかどうかを判断しなければならないということです。
手元の書類に検査済証がない。図面と今の建物が違う気がする。そういうときも、慌てなくて大丈夫です。
まずは、どの書類が残っていて、何が分からないのかを整理するところからで構いません。売る予定がまだ決まっていない段階のご相談でも大丈夫です。
※この記事は2026年8月時点の情報をもとにしています。制度の詳細や個別の取り扱いについては、自治体の建築担当窓口・金融機関・専門家にご確認ください。
