空き家が「特定空家等」になると何が起きるのか。勧告・命令・行政代執行の流れ

    実家の近所に住む方から、電話がかかってくる。

    「お宅の庭木が、うちの塀を越えてきていますよ」。「屋根の瓦が、少しずれているみたいですけど」。

    誰も住まなくなった家の状態を、そういう連絡で初めて知る。そういう方は、少なくありません。

    気にはなっていた。でも、今すぐ倒れそうなわけでもないし、まだ大丈夫だろう。そう思いながら、そのままになっていた。実際に大きな被害が出ていない段階で、空き家の管理を優先するのは難しいものです。自宅から遠ければ、様子を見に行くだけでも時間がかかります。修理や庭木の手入れを頼むにも、どこへ相談すればよいのか分からないこともあります。

    責められることでは、ありません。

    ただ、空き家を管理しない状態が続くと、市区町村から「特定空家等」と判断されることがあります。

    特定空家等とは、単に古い家や、誰も住んでいない家のことではありません。

    そのまま放置すれば、倒壊などにより著しく危険になるおそれがある状態。ごみや害虫などにより、衛生上著しく有害になるおそれがある状態。適切な管理が行われておらず、周辺の景観を著しく損なっている状態。そのほか、周辺の生活環境を守るために、そのまま放置することが不適切な状態。

    このような空き家について、建物の状態や周辺への影響を調べたうえで、市区町村が判断します。

    こう聞くと、うちの家も、すぐに解体されるのではないか。そう不安になるかもしれません。

    特定空家等と判断されたからといって、通常は、いきなり建物を解体されるわけではありません。

    市区町村は、所有者に対して、まず必要な対応を求めます。伸びた庭木を切る。落ちそうな瓦を直す。壊れた外壁を補修する。ごみを片付ける。建物全体を建て替えたり、すぐに解体したりしなければならないとは限りません。問題になっているところを改善できれば、その後の手続きへ進まずに済むことがあります。

    それでも改善されない場合は、助言や指導に続いて「勧告」が行われることがあります。

    所有者にとって大きな影響が出るのは、この勧告を受けた段階です。

    住宅が建っている土地には、固定資産税の負担を軽くする「住宅用地特例」があります。固定資産税では、住宅一戸につき200平方メートルまでの小規模住宅用地は、課税標準額が価格の6分の1になります。200平方メートルを超える一般住宅用地の部分は、価格の3分の1になります。

    ところが、特定空家等について市区町村から勧告を受けると、その敷地は住宅用地特例の対象から外れます。

    よく「固定資産税が6倍になる」と言われますが、すべてのケースで納税額がそのまま6倍になるわけではありません。土地の面積、評価額、自治体による負担調整、都市計画税の有無などによって、実際の増加額は変わります。ただし、それまで受けていた特例が外れるため、土地の税負担が大きくなる可能性があることは確かです。

    勧告を受けても改善されない場合は、さらに「命令」へ進むことがあります。命令が出される前には、所有者が意見を述べる機会などが設けられます。命令が出されると、その内容が公示され、空き家の場所に標識が設置されることもあります。

    正当な理由なく命令に従わなかった場合は、50万円以下の過料に処されることがあります。

    それでも必要な対応が行われなければ、最終的には行政代執行に進むことがあります。行政代執行とは、所有者が行うべき修理や除却などを、行政が代わって行うことです。行政が行ったからといって、その費用を自治体が負担してくれるわけではありません。解体費用などは、原則として所有者に請求されます。所有者を確知できない場合には、略式代執行が行われることもあります。

    また、2023年12月13日に施行された改正空家法では、倒壊などにより周囲へ危険が迫っている緊急時に、命令などの一部の手続きを経ずに代執行できる制度も設けられました。

    ただ、ここまで進むのは、管理されていない状態が続き、周辺への危険や悪影響が大きくなっている場合です。瓦が一枚ずれているだけで、直ちに行政代執行まで進むという話ではありません。建物の状態、周囲への影響、所有者の対応などを見ながら、市区町村が必要な措置を判断します。

    もう一つ、知っておきたいのが「管理不全空家等」です。

    2023年の法改正により、特定空家等になる前の段階から、市区町村が対応できるようになりました。管理不全空家等とは、適切な管理が行われておらず、このまま放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家です。屋根や外壁の一部が傷んでいる。排水設備が壊れている。庭木が伸び続けている。

    現時点では特定空家等とまでは判断されなくても、管理されない状態が続けば、周辺へ影響する可能性があります。そのような空き家に対して、市区町村は指導を行い、改善されない場合には勧告できるようになりました。管理不全空家等についても、勧告を受けると、その土地は固定資産税等の住宅用地特例の対象から外れます。

    つまり、特定空家等に指定されていないから、まだ何もしなくてよい。そうとは言い切れなくなっています。

    とはいえ、空き家が古くなっているからといって、慌てて売却や解体を決める必要はありません。

    まず確認したいのは、現在の状態です。屋根や外壁に、落下しそうな部分はないか。雨どいや窓ガラスが壊れていないか。庭木や雑草が、道路や隣の敷地まではみ出していないか。ごみが置かれたり、害虫や動物が入り込んだりしていないか。門や玄関の鍵が壊れ、防犯上の問題が起きていないか。雨漏りや水漏れが起きていないか。近隣や市区町村から、連絡や通知が届いていないか。

    自分で現地へ行けない場合は、近くに住む親族や、現地を確認できる不動産会社などへ頼む方法もあります。写真を撮ってもらうだけでも、何から手を付けるべきかを考えやすくなります。

    すぐにできる補修で状態を保てるのか。定期的な管理を頼んで残すのか。必要なところを修理して貸すのか。今後も使う予定がなければ売却するのか。建物の状態が悪ければ、解体も含めて考えるのか。

    どの方法がよいかは、建物の状態、場所、所有者や家族の考えによって変わります。

    大切なのは、行政から勧告や命令を受けてから慌てて動くのではなく、まだ選べる方法が残っているうちに、現在の状態を確認することです。

    市区町村から連絡が届いている場合も、そのままにしないでください。書かれている内容が分からない場合は、担当部署へ連絡し、どの部分を、いつまでに、どの程度改善する必要があるのかを確認します。すべてを一度に直すことが難しい場合でも、今後の対応について相談できることがあります。

    特定空家等になるかどうかを、一人で判断する必要はありません。

    寝屋川市や枚方市でも、近所の方に言われて初めて庭木や瓦のことを知った、というご相談をいただきます。皆さん、放っておこうと思っていたわけではなく、きっかけがないまま時間が過ぎてしまった、という方がほとんどです。

    庭木が伸びている。瓦や外壁の傷みが気になる。遠方にあり、長い間見に行けていない。

    その段階で一度状態を確認し、貸す、残す、売る、解体するという方法を整理しておく。それだけで、次に何をすればよいのかが見えてきます。

    売却を前提にお話をうかがうわけではありません。まず現地がどうなっているのかを確認したうえで、どのような進め方が考えられるのかを一緒に整理します。

    まだ何も決めていない段階でも大丈夫です。

    ※この記事は2026年8月時点の情報をもとにしています。制度の詳細や個別の取り扱いについては、自治体の担当窓口・専門家にご確認ください。

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