押し入れの戸を開ける。段ボールと、紙袋と、見覚えのない箱。とりあえず一つ持ち上げてみて、また元に戻す。
実家の片付けは、たいていここから始まって、ここで止まります。
親が老人ホームに入所した。相続で実家を引き継いだ。そんなとき、最初に考えるのが実家の片付けです。
ただ、実家の片付けは、いきなり荷物を捨てることから始めない方がいいと思っています。家族から見れば不要に見えるものでも、親にとっては必要なものかもしれません。思い出のあるものかもしれません。あとで必要になる大切な書類や貴重品が、荷物の中に紛れていることもあります。
だから、片付けを始める前に、確認しておきたいことがいくつかあります。
まず確認したいのは、これから親が使うものです。
衣服、下着、靴、毛布、タオル。写真や、思い出の品。入所したあとに、「あの服を持ってきてほしい」「いつも使っていた毛布がほしい」「写真の入った箱を見たい」と言われることがあります。そのときに、「もう捨てた」と言わなくて済むように、片付ける前に親と話しておくことが大切です。
夏に片付けをするなら、冬服をどれだけ残すのか。冬に片付けをするなら、夏服をどれだけ残すのか。できるだけ親本人に確認しながら、残すものと処分するものを分けていく。その方が、あとで揉めにくくなります。
次に気をつけたいのは、勝手に処分しないことです。
実家の片付けで一番揉めやすいのが、ここです。家族から見ると、もう使わないように見えるものがあります。古い服。使っていない食器。何年も開けていない箱。古い手紙。写真。でも、本人にとっては大切なものかもしれません。
片付ける側は、良かれと思って処分します。でも親からすれば、「勝手に捨てられた」と感じることがあります。
全部を確認するのは難しいかもしれません。それでも、迷うものは一度残しておく。判断に困るものは、親に確認する。このひと手間が、あとでの後悔を減らします。
それから、現金や大切なものの保管場所も、早めに確認しておきたいところです。
通帳、銀行印、実印、印鑑登録証。権利証や登記識別情報。保険証券、年金関係の書類。そして現金。こうしたものは、あとで必ず必要になります。「そのうち分かるだろう」と思っていると、いざ必要になったときに見つからず、家中を探すことになります。
親と話ができるうちに、どこに保管しているのかを確認しておく。それだけでも、その後の手続きはずいぶん違います。もちろん、防犯のためにも、その情報は家族の中で適切に管理することが大切です。
そして、片付けそのものは、できるときに少しずつ進めるのがいいと思っています。
長年暮らした家には、想像以上に物があります。押し入れ、タンス、納戸、物置、台所、仏壇まわり。一気に片付けようとすると、体力的にも精神的にも負担が大きくなります。急ぐと、大切なものまで処分してしまうことにもなりかねません。
親と話せるうちに確認する。思い出話をしながら、残すものと処分するものを分けていく。できるときに、少しずつ進める。その方が、あとで処分するときの気持ちも、少し楽になります。
こうして片付けを進めていくと、いつか「この家をどうしようか」と考えることになります。売る、貸す、そのまま残す。いろいろな選択肢があります。でも、その答えを急いで出す必要はありません。
まずは、親がこれから必要なものを整理すること。大切な書類や貴重品の場所を確認すること。そして、親と話ができるうちに、一緒に思い出を振り返りながら片付けを進めること。
実家の片付けは、不動産の問題である前に、家族の時間でもあります。
だから、家をどうするかを考える前に、まずは親と話をする時間を大切にしてほしいと思っています。実家の片付けは、荷物を減らす作業だけではありません。親のこれからの暮らしを考えること。大切なものを確認すること。家族の思い出を整理すること。そういう時間でもあります。
勝手に処分すると、揉めるもとになります。でも、親と相談できるうちに少しずつ整理しておけば、あとで困ることは減らせます。
「あれを持ってきてほしい」。そう言われたときに、「もう捨てた」と言わなくて済むように。できるときに、できるところから。まずは、親と話すことから始めてみてください。
そのうえで、家をどうするか。売るのか、貸すのか、そのまま残すのか。そこで迷ったときは、一人で抱え込まないでほしいと思います。
私は、相続した実家や空き家、遠方の不動産の相談を、これまで数多く受けてきました。すぐに売る話をするわけではありません。まずは、今どういう状況で、何に困っているのかを聞くところから始めます。
片付けも、家のことも、急いで答えを出す必要はありません。でも、困ったときに相談できる相手がいる。それだけで、気持ちは少し楽になります。
片付けの途中でも、家をどうするか決めていなくても大丈夫です。
いま何が気がかりなのか。そこを一度言葉にしてみるところから、で構いません。
