一人は売りたい。一人は残したい。一人は、今はまだ決めたくない。相続した実家をどうするかという話し合いが、こういう形になることがあります。
売りたい人からすれば、なぜ早く決めないのかと思います。残したい人からすれば、親の家をそんなに簡単に売るのかと思います。決めたくない人は、今は揉めたくないと思っている。同じ家を見ているのに、見えているものが違うのです。
相続というと、財産を分ける話だと思われがちです。もちろん、それは間違いではありません。預金がいくらあるのか。不動産の評価はいくらなのか。誰がどれだけ相続するのか。そういう話は当然あります。
でも、現場で見ていると、相続で揉める理由は金額だけではないことが多いです。むしろ、金額の話をしているようで、本当は過去の不満が出ていることがあります。
親の面倒を見てきたのは私です。兄は何もしてこなかった。実家のことは全部こちらに任せきりだった。それなのに、相続になると同じように権利を主張するのか。こういう気持ちが出てきます。
一方で、別の兄弟姉妹には、また違う言い分があります。自分にも生活があった。遠方に住んでいたから、簡単には動けなかった。親から何も聞いていなかった。実家に近い人だけが、全部決めるのはおかしい。
どちらが正しい、どちらが間違っている、という簡単な話ではありません。それぞれに事情があります。ただ、相続の場面になると、それまで口にしてこなかった感情が、一気に出てくることがあります。
ここが、相続不動産の難しいところです。
そして、もう一つ。不動産そのものの性質があります。不動産は、現金のように簡単には分けられません。
預金であれば、金額を分けることはできます。もちろん、それでも揉めることはあります。でも不動産は、土地や建物そのものを、簡単に人数分で分けることができません。
誰かが住むのか。売って現金にするのか。貸すのか。そのまま残すのか。誰が管理するのか。費用は誰が負担するのか。考えることが多くあります。
ある人には、売却できる財産に見える。ある人には、親との思い出が残る場所に見える。ある人には、管理や固定資産税がかかる負担に見える。ある人には、自分の取り分を左右するものに見える。だから、意見が分かれます。
そして相続では、納得できるかどうかがとても大きくなります。金額だけなら、計算で出せることもあります。でも、感情の納得は、計算だけでは出せません。
たとえ法律上は同じ割合だとしても、それでは納得できないという人が出てくることがあります。親の近くにいた人。介護に関わった人。実家の管理をしてきた人。逆に、距離を置いていた人。事情があって関われなかった人。それぞれの立場によって、感じ方は変わります。
だから、相続不動産の問題は、土地や建物の価値だけを見ていても解けません。本当に見なければいけないのは、その不動産に対して、誰がどんな思いを持っているのか。そして、誰が何を不公平だと感じているのか。
ここを見ないまま、売ればいい、分ければいい、法律通りでいい、と進めようとすると、話がこじれることがあります。
もちろん、法律は大切です。権利関係も大切です。不動産の評価も必要です。でも、それだけでは足りない場面があります。なぜなら、相続不動産には、家族の過去が乗っているからです。
親との関係。兄弟姉妹との距離感。これまで言えなかった不満。自分だけが損をしているように感じる気持ち。そういうものが、不動産をきっかけに出てくる。これが、相続不動産が揉めやすい理由だと思います。
もちろん、すべての相続で揉めるわけではありません。親族同士できちんと話し合い、お互いの立場を理解しながら、スムーズに進むケースもあります。ただ、揉める時には、不動産の価値だけではなく、それまでの関係性や感情が出てくることがあります。
だから私は、相続不動産の相談で、いきなり売却の話だけを進めるのは危ないと思っています。寝屋川市で不動産の仕事を続けてきて、なおさらそう感じるようになりました。
まずは、状況を整理することです。名義はどうなっているのか。相続人は誰なのか。住宅ローンや借入はないのか。固定資産税や管理費は誰が払っているのか。今後、誰かが使う予定はあるのか。売ることに反対している人はいるのか。
そして、もう一つ大事なのは、親族の中で何が引っかかっているのかを整理することです。お金の問題なのか。思い出の問題なのか。親の面倒を見たことへの不満なのか。兄弟姉妹への不信感なのか。配偶者や周囲の意見が入っているのか。ここを見ないと、本当の問題が分からないことがあります。
相続不動産は、ただの財産ではありません。家族や親族の歴史が残っている場所です。だからこそ、扱い方を間違えると、親族間の争いにつながります。でも、最初から丁寧に整理すれば、揉め方を小さくできることもあります。
大切なのは、誰かを責めることではありません。誰が得をするかだけを見ることでもありません。その不動産をどうすることが、関係する人たちにとって一番よいのか。そして、次の世代に余計な負担を残さないためには、どう向き合うべきなのか。そこを考えることだと思います。
分けにくい財産だからこそ、順番に整理していけば進みます。名義のこと、費用のこと、親族の間で引っかかっていること。何から手をつけるか分からないという段階からでも、お話をうかがえます。
まだ何も決めていない段階でも大丈夫です。慌てなくて大丈夫です。
