物件を10件、15件と見てきた。どれも、それなりに良かった。それでも決められない。家を探していると、そういう時期に入ることがあります。
これは、決断が苦手だからではないと思います。見た数が増えるほど、自分が何を探しているのかを言葉にしづらくなる。そういうことが起きているからです。責められることでは、ありません。
何が起きているのか、順番に書いてみます。
「もう少しほかの物件も見てみたいです」何件か物件をご案内していると、こう言われることがあります。もちろん、見てもらいます。家は高い買い物です。2件、3件見ただけで決めなければならないものでもありません。
ところが、5件、10件と見ていくうちに、最初に聞いていた希望条件が少しずつ変わっていくことがあります。
最初は、「この地域で探したい」「このくらいの予算で」「駐車場は2台ほしい」「3LDK以上あればいい」そんな条件だったはずです。
ところが、実際に物件を見始めると変わってきます。ある家を見て、「このリビング、広くていいですね」別の家では、「このキッチンは使いやすそう」また別の家を見ると、「この家は日当たりがいいですね」駅に近い家を見れば、やっぱり駅に近い方がいい。収納の多い家を見れば、収納もこれくらいほしい。道路の広い家を見れば、前の道路も広い方がいい。
一つ一つは、もっともな希望です。
問題は、そのあとです。
これまで見てきた物件の「良かったところ」が、少しずつ次の物件を選ぶ条件に加わっていくことがあります。広いリビング。使いやすいキッチン。日当たり。収納。駅までの距離。道路の広さ。駐車場。築年数。そして、もちろん予算も変えたくない。
気がつくと、最初に探していた家とは違う家を探し始めています。しかも、それまで見てきた物件の良いところを全部集めたような家です。
そんな物件が予算の中で見つかればいいのですが、なかなかそうはいきません。
そして、ここから物件探しが難しくなってきます。
新しい物件を見ても、「前に見た家の方がリビングは広かった」「でも、あの家は駅から遠かった」「この家は駅に近いけど、駐車場が狭い」「前の家は収納が多かった」一つの物件を見ているのに、頭の中では今まで見た何件もの物件と比べています。
Aという物件のリビング。Bという物件の日当たり。Cという物件の立地。Dという物件の価格。それを全部合わせた物件を探し始める。
でも、そんな物件はなかなかありません。
決められなくなるのは、こういうときです。物件が悪いわけでも、探し方が間違っているわけでもありません。頭の中にある「探している家」が、自分でも言葉にできない形になっているだけです。
私は、何件も物件を見ることが悪いとは思っていません。実際に見なければ分からないことはたくさんあります。
図面では広く見えた部屋が、実際に入ると思ったより狭いこともあります。駅から徒歩10分なら大丈夫だと思っていたけれど、実際に歩いてみると毎日は少ししんどいと感じることもあります。
反対に、最初は考えていなかった地域でも、行ってみると、「ここなら住めそう」と思うこともあります。
物件を見ることで、自分たちが本当に必要としているものが分かってくる。これは大切なことです。
ただ、分かってきたものを言葉にしないまま件数だけ増やしていくと、いつまでたっても決められなくなることがあります。
そんなとき、私はお客様にこうお伝えしています。
「どこは妥協できて、どこは譲れないのか。そこを、ご夫婦で一度話し合ってみてください」
家を探し始めたとき、何を一番大事にしていたのか。地域なのか。予算なのか。広さなのか。駅からの距離なのか。子どもの学校なのか。駐車場なのか。
全部を同じように求めるのではなく、「これは外せない」というものは何なのか。反対に、「ここなら妥協できる」というものは何なのか。
そこを一度、分けて考えてもらいます。頭の中で思っているだけでなく、口に出して言ってみる。紙に書き出してみる。それだけでも、自分が何を探していたのかが見えてくることがあります。
たとえば、駐車場は2台どうしても必要。リビングから庭が見えること。2階建てであること。トイレは1階と2階に一つずつほしい。
ここは譲れない。
そのかわり、駅までは歩きでなくてもいい。バスが使えるなら、それでいい。探す場所も、もう少し広げてみる。
こちらは妥協できる。
こうして分けていくと、探す物件が変わってきます。
ただし、何を妥協して、何を譲らないのか。そこは、ご夫婦の問題です。
私が、「駅から遠いのは我慢してください」「駐車場は1台でいいでしょう」と決めることではありません。これからその家で生活するのは、お客様だからです。
私は、条件を整理するお手伝いはできます。でも、最後に何を残して、何を諦めるのかは、ご夫婦で話し合って決めてもらうことだと思っています。
100点の家を探そうとすると、なかなか見つかりません。だからといって、何でも妥協して買えばいいという話でもありません。
自分たちにとって大切な条件がきちんと入っていれば、ほかの部分は考え方を変えられることがあります。
駅から少し遠くても、バスが使える。希望していた地域から少し外れても、生活するうえでは問題がない。建物が少し古くても、改装すれば自分たちの希望する家に近づけられる。
そうやって一つずつ言葉にしていくと、今まで候補に入らなかった物件が候補に入ってくることもあります。
何件見ても決められなくなったとき、「もっと良い物件があるのではないか」と、さらに次の物件を探したくなることがあります。
もちろん、本当に次にもっと良い物件が出ることもあります。でも、次の物件にも良いところと気になるところがあります。その次に見る物件も同じです。
だから、何件見たら決めるということではありません。何件見ても決められなくなってきたときこそ、一度物件探しを止めて、「自分たちは、何を一番大事にしていたのか」を、ご夫婦で話し合ってみる。
何を妥協できるのか。何は譲れないのか。そこが言葉になれば、また物件を探せます。
探しているのは、今まで見た物件の良いところを全部集めた家ではありません。これから自分たちが生活する家です。
何件見ても決められなくなったときは、次の物件を見ることより、まず自分たちが何を探しているのかを言葉にしてみる。私は、その方が次の一軒を探しやすくなると思っています。
自分でも何を探しているのか分からなくなってきた。そんな状態のままで構いません。急かすことも、無理に物件をお勧めすることもしません。言葉にするところから、一緒に整理していきます。
